「このな、なんてうな」
という庄内弁を正確な標準語に直せる人は、庄内人以外にあまりいないのではないだろうか。
「この名前は、何という名前?」あるいは「この菜は、何という菜?」と考えるかもしれない。もっと捻って「この名、なんて言うな!」と考える人もいるかもしれない。正解は、
「これ、なあに?」
である。
「このな」の
「こ」は「これ」という代名詞、
「の」は助詞で、
「な」は「何」という代名詞、
つまり
「このな」とは「これの何」という意味、
「なんてうな」の
「な」は質問をあらわす終助詞で「の」という意味、
直訳すれば
「これの何は、何というの?」
となる。非常に複雑ないいまわしで、平安時代頃の優雅な言葉を思い起こさせるが、寒冷地方の言葉としては珍しいのではないだろうか。
庄内弁の「このな」「あのな」「そのな」「どのな」は、音便化されてたまたま「こんな」「あんな」「そんな」「どんな」とも発音されるが、「このような」といった意味ではなく、標準語ではそれぞれ「これ」「あれ」「それ」「どれ」という意味である。
前述の「おれな」「わあな」などの「な」も、代名詞として分類できるだろう。
「おれな」=「わたしのもの」
「わあな」=「あなたのもの」
「だれな」=「誰のもの」
「先生な」=「先生のもの」
「おらえな」=「わたしの家のもの」
「こごねな」=「ここの家のもの」
東京人Aと庄内人Bの会話。
1.A:「彼の車は、速いね」B:「おれな、もとはえ」
2.A:「彼は、速いね」B:「おれな、もとはえ」
1と2におけるBの「おれな」の「な」の意味の違いがわかるだろうか。
1の「な」は前述の「(〜の)もの」という代名詞で
「おれの(車)は、もっと速い」という意味。
2の「な」は「なんか」という例示の副助詞で
「おれなんか、もっと速い」という意味になる。
イントネーションは全く同じなため、意味はその時の状況で判断することになる。
もっとわかりやすい庄内弁で言えば
1.「おれなだば、もとはえ」=「おれの車なら、もっと速い」
2.「おれなの、もとはえ」=「おれならば、もっと速い」
ということになるのだが、往々にして「おれな」と言う場合が多い。
1の「な」は代名詞で、2の「な」は副助詞であると述べたが、仮に1で
「おれなな、もとはえ」あるいは「おれの車な、もとはえ」
と答えた場合、
「おれの車なんか、もっと速い」
という意味になって、その場合の「な(後のな)」は副助詞となる。
副助詞としての「な」は、名詞と接続するのみで、用言などと接続することはない。
「おれな」=「わたしなんか」
「わ(あ)な」=「あなたなんか」「自分なんか」
「おれなな」=「わたしの(もの)なんか」
「車(名詞)な」=「車なんか」
・間投助詞としての「な」
庄内弁で「な」を間投助詞として使うことはまずない。ほとんどの場合、「の」あるいは「へ」を使うようである。
「まあ、お入りなさいな」=「まんず、へらへ」
「大きくなりましたな」=「おっきぐなたの」
・命令をあらわす終助詞として命令をあらわす場合は、終助詞を使わないのが一般的であるが、命令をやわらげる意味で、たまに「の」などを使う場合もある。
「早くしな」=「はやぐしぇ(の)」
「こっちへ来な」=「こっちゃこい(の)」
<未完>
▲普段は農業を営んでいる人たちが、何の見返りもなしに、数百年にもわたって、地域に伝わる文化を守ってきたのは驚異だ。これは庄内の宝だと思う。いつか取材して、ここに紹介したいと思っている。
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