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庄内語の不思議

「な」のなな不思議

(3)代名詞としての「な」の不思議

「このな、なんてうな」

という庄内弁を正確な標準語に直せる人は、庄内人以外にあまりいないのではないだろうか。

「この名前は、何という名前?」あるいは「この菜は、何という菜?」と考えるかもしれない。もっと捻って「この名、なんて言うな!」と考える人もいるかもしれない。正解は、

 「これ、なあに?」

である。

「このな」の

 「こ」は「これ」という代名詞、

 「の」は助詞で、

 「な」は「何」という代名詞、

つまり

 「このな」とは「これの何」という意味、

「なんてうな」の

 「な」は質問をあらわす終助詞で「の」という意味、

直訳すれば

 「これの何は、何というの?」

となる。非常に複雑ないいまわしで、平安時代頃の優雅な言葉を思い起こさせるが、寒冷地方の言葉としては珍しいのではないだろうか。

庄内弁の「このな」「あのな」「そのな」「どのな」は、音便化されてたまたま「こんな」「あんな」「そんな」「どんな」とも発音されるが、「このような」といった意味ではなく、標準語ではそれぞれ「これ」「あれ」「それ」「どれ」という意味である。

前述の「おれな」「わあな」などの「な」も、代名詞として分類できるだろう。

 「おれな」=「わたしのもの」

 「わあな」=「あなたのもの」

 「だれな」=「誰のもの」

 「先生な」=「先生のもの」

 「おらえな」=「わたしの家のもの」

 「こごねな」=「ここの家のもの」

(4)副助詞としての「な」の不思議

東京人Aと庄内人Bの会話。

 1.A:「彼の車は、速いね」B:「おれな、もとはえ」

 2.A:「彼は、速いね」B:「おれな、もとはえ」

1と2におけるBの「おれな」の「な」の意味の違いがわかるだろうか。

1の「な」は前述の「(〜の)もの」という代名詞で

 「おれの(車)は、もっと速い」という意味。

2の「な」は「なんか」という例示の副助詞で

 「おれなんか、もっと速い」という意味になる。

イントネーションは全く同じなため、意味はその時の状況で判断することになる。

もっとわかりやすい庄内弁で言えば

 1.「おれなだば、もとはえ」=「おれの車なら、もっと速い」

 2.「おれなの、もとはえ」=「おれならば、もっと速い」

ということになるのだが、往々にして「おれな」と言う場合が多い。

1の「な」は代名詞で、2の「な」は副助詞であると述べたが、仮に1で

 「おれなな、もとはえ」あるいは「おれの車な、もとはえ」

と答えた場合、

 「おれの車なんか、もっと速い」

という意味になって、その場合の「な(後のな)」は副助詞となる。

副助詞としての「な」は、名詞と接続するのみで、用言などと接続することはない。

 「おれな」=「わたしなんか」

 「わ(あ)な」=「あなたなんか」「自分なんか」

 「おれなな」=「わたしの(もの)なんか」

 「車(名詞)な」=「車なんか」

(5)庄内弁では使わない「な」の不思議

・間投助詞としての「な」

庄内弁で「な」を間投助詞として使うことはまずない。ほとんどの場合、「の」あるいは「へ」を使うようである。

 「まあ、お入りなさいな」=「まんず、へらへ」

 「大きくなりましたな」=「おっきぐなたの」

・命令をあらわす終助詞として

命令をあらわす場合は、終助詞を使わないのが一般的であるが、命令をやわらげる意味で、たまに「の」などを使う場合もある。

 「早くしな」=「はやぐしぇ(の)」

 「こっちへ来な」=「こっちゃこい(の)」

(6)方言における類似性と分布に見る「な」の不思議

<未完>

黒川能

▲普段は農業を営んでいる人たちが、何の見返りもなしに、数百年にもわたって、地域に伝わる文化を守ってきたのは驚異だ。これは庄内の宝だと思う。いつか取材して、ここに紹介したいと思っている。