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サザンカ
02.11.24
なぜか子供の頃、サザンカの花の夢を何度か見た。いつも同じ夢で、同じところで目が覚めた。楽しい夢ではなかったが、サザンカの夢を見ることは嫌ではなかった。

◆  ◆  ◆
イメージ
そこは細い坂道で、道の両側には真っ白なサザンカの花が咲いていた。サザンカの道はどこまでも続いているように見えた。少女が私の前を軽々と走って坂道を登って行く。私はあえぎながら少女の後を追い掛ける。少女が笑いながら戻ってきて私の手を握ると、私は急に体が軽くなって、少女のように軽々と坂道を駆け登ることができた。
突然道が途切れて広い草原が現れる。草原の向うには絵本で見たヨーロッパの田園風景が広がり、村々の赤い屋根が小さく見える。
少女が何か言い、私の手をとる。私はふわりと宙に舞い上がる。少女が手を離すと、私はゆっくりと落ちて行く。
「飛ぶのよ!」少女が叫ぶ。
私は「飛ぶんだ、飛ぶんだ」と一生懸命心に念じる。するとまた、少しずつ体が上に昇りはじめる。

新宿ゴールデン街の朝は冷え込んでいた。寒さに震えながら二人は黙って小さな公園のベンチに座っていた。空はまだ暗かったが、もうすぐ始発の時間だった。
当時、私は何もしていなかった。大学を卒業して1年以上経っていたが、その間は知人に仕事をもらいながら暮らしていた。2〜3日仕事をすれば1週間は何もしないで暮らせるだけの金が手に入った。ゴールデン街に入り浸り、学生やカメラマンの卵や売れない俳優や自称イラストレーターの青臭い芸術論を聞きながら、私は隅の方でひっそりと朝まで飲む。私は彼等の名前も知らなかった。彼女はそんな中の一人で、話をするのはその日が初めてだった。
「何してるんだろう。なんてくだらないこと話たんだろう」
酔いもさめ自己嫌悪で彼女は涙ぐむ。
明るくなり始め、一時人通りが絶え、またどこからか人々がやってくる。二人は駅に向かってけだるく歩く。お互いに名前も知らず、話すこともないのに、あたかも恋人のように小田急線に乗り、向ヶ丘遊園で降りる。平日の遊園地は寂しく人もいない。

キスをしたような気がする。
彼女は確かに笑ったような気がする。
「私は飛べないのよ。どこまでも落ちて行くんだわ」
彼女は突然駆け出す。
その先には「さざんか道」と書かれた坂道がある。
道の両側にサザンカの白い花が咲いている。
"私はここを知っている。見たことがある。いつも来ていた"
デジャビュ。少女の姿が重なる。
彼女は振り向いて私の手を握った。

私の体はどんどんどんどん宙に昇って行く。
遠くに家々の赤い屋根が小さく見える。
サザンカの白い花びらが雪のように空中を舞っている。
少女の姿が花びらの陰に隠れて見えなくなる。
突然私の体が猛スピードで落下する。
「ああ〜!」
自分の叫び声で目が覚める。